つまで立ったって、変りようがないわ」
「変ります。――阿爺《おとっさん》と兄さんの傍《そば》を離れると変ります」
「どうしてでしょうか」
「離れると、もっと利口に変ります」
「私《わたし》もっと利口になりたいと思ってるんですわ。利口に変れば変る方がいいんでしょう。どうかして藤尾《ふじお》さんのようになりたいと思うんですけれども、こんな馬鹿だものだから……」
甲野さんは世に気の毒な顔をして糸子のあどけない口元を見ている。
「藤尾がそんなに羨《うらやま》しいんですか」
「ええ、本当に羨ましいわ」
「糸子さん」と男は突然優しい調子になった。
「なに」と糸子は打ち解けている。
「藤尾のような女は今の世に有過ぎて困るんですよ。気をつけないと危《あぶ》ない」
女は依然として、肉余る瞼《まぶた》を二重《ふたえ》に、愛嬌《あいきょう》の露を大きな眸《ひとみ》の上に滴《したたら》しているのみである。危ないという気色《けしき》は影さえ見えぬ。
「藤尾が一人出ると昨夕《ゆうべ》のような女を五人殺します」
鮮《あざや》かな眸に滴るものはぱっと散った。表情はとっさに変る。殺す[#「殺す」に傍点]と云う言葉
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