。甲野さんは糸子の顔を見たまま、なぜの説明を求めなかった。糸子も進んでなぜの訳を話さなかった。なぜ[#「なぜ」に傍点]は愛嬌《あいきょう》のうちに溺《おぼ》れて、要領を得る前に、行方《ゆくえ》を隠してしまった。
塗り立てて瓢箪形《ひょうたんなり》の池浅く、焙烙《ほうろく》に熬《い》る玉子の黄味に、朝夕を楽しく暮す金魚の世は、尾を振り立てて藻《も》に潜《もぐ》るとも、起つ波に身を攫《さらわ》るる憂《うれい》はない。鳴戸《なると》を抜ける鯛《たい》の骨は潮に揉《も》まれて年々《としどし》に硬くなる。荒海の下は地獄へ底抜けの、行くも帰るも徒事《いたずらごと》では通れない。ただ広海《ひろうみ》の荒魚《あらうお》も、三つ尾の丸《まる》っ子《こ》も、同じ箱に入れられれば、水族館に隣合《となりあわせ》の友となる。隔たりの関は見えぬが、仕切る硝子《ガラス》は透《す》き通りながら、突き抜けようとすれば鼻頭《はなづら》を痛めるばかりである。海を知らぬ糸子に、海の話は出来ぬ。甲野さんはしばらく瓢箪形に応対をしている。
「あの女はそんなに美人でしょうかね」
「私は美いと思いますわ」
「そうかな」と甲野さんは
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