らして、座敷との仕切《しきり》とする。
甲野《こうの》さんは玄関を右に切れて、下駄箱の透《す》いて見える格子《こうし》をそろりと明けた。細い杖《つえ》の先で合土《たたき》の上をこちこち叩《たた》いて立っている。頼むとも何とも云わぬ。無論応ずるものはない。屋敷のなかは人の住む気合《けわい》も見えぬほどにしんとしている。門前を通る車の方がかえって賑《にぎ》やかに聞える。細い杖の先がこちこち鳴る。
やがて静かなうちで、すうと唐紙《からかみ》が明く音がする。清《きよ》や清やと下女を呼ぶ。下女はいないらしい。足音は勝手の方に近づいて来た。杖の先はこちこちと云う。足音は勝手から内玄関の方へ抜け出した。障子があく。糸子《いとこ》と甲野さんは顔を見合せて立った。
下女もおり書生も置く身は、気軽く構えても滅多《めった》に取次に出る事はない。出ようと思う間《ま》に、立てかけた膝《ひざ》をおろして、一針でも二針でも縫糸が先へ出るが常である。重たき琵琶《びわ》の抱《だ》き心地と云う永い昼が、永きに堪《た》えず崩れんとするを、鳴く※[#「亡/(虫+虫)」、第3水準1−91−58]《あぶ》にうっとりと夢を支
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