始《はじめ》て」と謎が云う。謎ばかり考えているものは迂濶《うかつ》である。欽吾と藤尾の事を引き抜くと頭は真空になる。蓮の葉どころではない。
蓮の葉が出たあとには蓮の花が咲く。蓮の花が咲いたあとには蚊帳《かや》を畳んで蔵へ入れる。それから蟋蟀《こおろぎ》が鳴く。時雨《しぐ》れる。木枯《こがらし》が吹く。……謎の女が謎の解決に苦しんでいるうちに世の中は変ってしまう。それでも謎の女は一つ所に坐《すわ》って謎を解くつもりでいる。謎の女は世の中で自分ほど賢いものはないと思っている。迂濶だなどとは夢にも考えない。
緋鯉ががぽちゃりとまた跳ねる。薄濁《うすにごり》のする水に、泥は沈んで、上皮だけは軽く温《ぬる》む底から、朦朧《もうろう》と朱《あか》い影が静かな土を動かして、浮いて来る。滑《なめ》らかな波にきらりと射す日影を崩《くず》さぬほどに、尾を揺《ゆ》っているかと思うと、思い切ってぽんと水を敲《たた》いて飛びあがる。一面に揚《あが》る泥の濃きうちに、幽《かす》かなる朱いものが影を潜めて行く。温い水を背に押し分けて去る痕《あと》は、一筋のうねりを見せて、去年の蘆《あし》を風なきに嬲《なぶ》る。
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