《と》ける。くれると云うのを、くれたくない意味と解いて、貰う料簡《りょうけん》で貰わないと主張するのが謎の女である。六畳敷の人生観はすこぶる複雑である。
 謎の女は問題の解決に苦しんでとうとう六畳敷を出た。貰いたいものを飽《あ》くまで貰わないと主張して、しかも一日も早く貰ってしまう方法は微分積分でも容易に発見の出来ぬ方法である。謎の女が苦し紛《まぎ》れの屈託顔に六畳敷を出たのは、焦慮《じれった》いが高《こう》じて、布団の上に坐《い》たたまれないからである。出て見ると春の日は存外|長閑《のどか》で、平気に鬢《びん》を嬲《なぶ》る温風はいやに人を馬鹿にする。謎の女はいよいよ気色《きしょく》が悪くなった。
 椽《えん》を左に突き当れば西洋館で、応接間につづく一部屋は欽吾が書斎に使っている。右は鍵《かぎ》の手に折れて、折れたはずれの南に突き出した六畳が藤尾の居間となる。
 菱餅《ひしもち》の底を渡る気で真直《まっすぐ》な向う角を見ると藤尾が立っている。濡色《ぬれいろ》に捌《さば》いた濃き鬢《びん》のあたりを、栂《つが》の柱に圧《お》しつけて、斜めに持たした艶《えん》な姿の中ほどに、帯深く差し込
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