産で世話になるのは、いかに気に入った男でも幅が利《き》かぬ。無一物の某《それがし》を入れて、おとなしく嫁姑《よめしゅうとめ》を大事にさせるのが、藤尾の都合にもなる、自分のためでもある。一つ困る事はその財産である。夫《おっと》が外国で死んだ四ヵ月後の今日は当然欽吾の所有に帰《き》してしまった。魂胆はここから始まる。
 欽吾は一文の財産もいらぬと云う。家も藤尾にやると云う。義理の着物を脱いで便利の赤裸《はだか》になれるものなら、降って湧《わ》いた温泉へ得たり賢こしと飛び込む気にもなる。しかし体裁に着る衣裳《いしょう》はそう無雑作《むぞうさ》に剥《は》ぎ取れるものではない。降りそうだから傘《かさ》をやろうと投げ出した時、二本あれば遠慮をせぬが世間であるが、見す見すくれる人が濡《ぬ》れるのを構わずにわがままな手を出すのは人の思《おも》わくもある。そこに謎《なぞ》が出来る。くれると云うのは本気で云う嘘《うそ》で、取らぬ顔つきを見せるのも隣近所への申訳に過ぎない。欽吾の財産を欽吾の方から無理に藤尾に譲るのを、厭々《いやいや》ながら受取った顔つきに、文明の手前を繕《つくろ》わねばならぬ。そこで謎が解
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