どり》に対する適当な言葉は怒《いかり》である。無念と嫉妬《しっと》を交《ま》ぜ合せた怒である。文明の淑女は人を馬鹿にするを第一義とする。人に馬鹿にされるのを死に優《まさ》る不面目と思う。小野さんはたしかに淑女を辱《はずか》しめた。
愛は信仰より成る。信仰は二つの神を念ずるを許さぬ。愛せらるべき、わが資格に、帰依《きえ》の頭《こうべ》を下げながら、二心《ふたごころ》の背を軽薄の街《ちまた》に向けて、何の社《やしろ》の鈴を鳴らす。牛頭《ごず》、馬骨《ばこつ》、祭るは人の勝手である。ただ小野さんは勝手な神に恋の御賽銭《おさいせん》を投げて、波か字かの辻占《つじうら》を見てはならぬ。小野さんは、この黒い眼から早速《さそく》に放つ、見えぬ光りに、空かけて織りなした無紋の網に引き掛った餌食《えじき》である。外へはやられぬ。神聖なる玩具として生涯《しょうがい》大事にせねばならぬ。
神聖とは自分一人が玩具《おもちゃ》にして、外の人には指もささせぬと云う意味である。昨夕《ゆうべ》から小野さんは神聖でなくなった。それのみか向うでこっちを玩具にしているかも知れぬ。――肱《ひじ》を持たして、俯向《うつむ》
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