さんにいっしょに行っていただいて勧工場《かんこうば》ででも買って来いと申しましたから」
「はあ、そうですか。そりゃ、残念な事で。ちょうど今から急いで出なければならない所があるもんですからね。――じゃ、こうしましょう。品物の名を聞いて置いて、私《わたし》が帰りに買って晩に持って行きましょう」
「それでは御気の毒で……」
「何構いません」
父の好意は再び水泡《すいほう》に帰した。小夜子は悄然《しょうぜん》として帰る。小野さんは、脱いだ帽子を頭へ載《の》せて手早く表へ出る。――同時に逝《ゆ》く春の舞台は廻る。
紫を辛夷《こぶし》の弁《はなびら》に洗う雨重なりて、花はようやく茶に朽《く》ちかかる椽《えん》に、干《ほ》す髪の帯を隠して、動かせば背に陽炎《かげろう》が立つ。黒きを外に、風が嬲《なぶ》り、日が嬲り、つい今しがたは黄な蝶《ちょう》がひらひらと嬲りに来た。知らぬ顔の藤尾は、内側を向いている。くっきりと肉の締った横顔は、後《うし》ろからさす日の影に、耳を蔽《おお》うて肩に流す鬢《びん》の影に、しっとりとして仄《ほのか》である。千筋《ちすじ》にぎらついて深き菫《すみれ》を一面に浴せる肩を
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