通り越して、向う側はと覗《のぞ》き込むとき、眩《まば》ゆき眼はしんと静まる。夕暮にそれかと思う蓼《たで》の花の、白きを人は潜むと云った。髪多く余る光を椽にこぼすこなたの影に、有るか無きかの細《ほっそ》りした顔のなかを、濃く引き残したる眉の尾のみがたしかである。眉の下なる切長の黒い眼は何を語るか分らない。藤尾は寄木《よせき》の小机に肱《ひじ》を持たせて俯向《うつむ》いている。
 心臓の扉を黄金《こがね》の鎚《つち》に敲《たた》いて、青春の盃《さかずき》に恋の血潮を盛る。飲まずと口を背《そむ》けるものは片輪である。月傾いて山を慕い、人老いて妄《みだ》りに道を説く。若き空には星の乱れ、若き地《つち》には花吹雪《はなふぶき》、一年を重ねて二十に至って愛の神は今が盛《さかり》である。緑濃き黒髪を婆娑《ばさ》とさばいて春風《はるかぜ》に織る羅《うすもの》を、蜘蛛《くも》の囲《い》と五彩の軒に懸けて、自《みずから》と引き掛《かか》る男を待つ。引き掛った男は夜光の璧《たま》を迷宮に尋ねて、紫に輝やく糸の十字万字に、魂を逆《さかしま》にして、後《のち》の世までの心を乱す。女はただ心地よげに見やる。耶蘇教
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