しき女は見事だと思う。
「先生だけなら、もっと閑静な所へ案内した方が好かったかも知れませんね」
 忙しがる小野を無理に都合させて、好《す》かぬ人込へわざわざ出掛けるのも皆《みんな》自分が可愛いからである。済まぬ事には人込は自分も嫌である。せっかくの思に、袖《そで》振り交わして、長閑《のどか》な歩《あゆみ》を、春の宵《よい》に併《なら》んで移す当人は、依然として近寄れない。小夜子は何と返事をしていいか躊躇《ためら》った。相手の親切に気兼をして、先方の心持を悪くさせまいと云う世態《せたい》染みた料簡《りょうけん》からではない。小夜子の躊躇ったのには、もう少し切ない意味が籠《こも》っている。
「先生にはやはり京都の方が好くはないですか」と女の躊躇った気色《けしき》をどう解釈したか、小野さんは再び問い掛けた。
「東京へ来る前は、しきりに早く移りたいように云ってたんですけれども、来て見るとやはり住み馴《な》れた所が好いそうで」
「そうですか」と小野さんはおとなしく受けたが、心の中《うち》ではそれほど性《しょう》に合わない所へなぜ出て来たのかと、自分の都合を考えて多少馬鹿らしい気もする。
「あなた
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