男女《なんにょ》の視線は御互の顔の上に落ちる。
男はおやと思う。姿勢だけは崩《くず》さない。女ははっと躊躇《ためら》う。やがて頬に差す紅《くれない》を一度にかくして、乱るる笑顔を肩共に落す。油を注《さ》さぬ黒髪に、漣《さざなみ》の琥珀《こはく》に寄る幅広の絹の色が鮮《あざやか》な翼を片鬢《かたびん》に張る。
「さあ」と小野さんは隔たる人を近く誘うような挨拶《あいさつ》をする。
「どちらへか御出掛で……」と立ちながら両手を前に重ねた女は、落した肩を、少しく浮かしたままで、気の毒そうに動かない。
「いえ何……まあ御這入《おはい》んなさい。さあ」と片足を部屋のうちへ引く。
「御免」と云いながら、手を重ねたまま擦足《すりあし》に廊下を滑《すべ》って来る。
男は全く部屋の中へ引き込んだ。女もつづいて這入《はい》る。明かなる日永の窓は若き二人に若き対話を促《うな》がす。
「昨夜は御忙《おいそが》しいところを……」と女は入口に近く手をつかえる。
「いえ、さぞ御疲でしたろう。どうです、御気分は。もうすっかり好いですか」
「はあ、御蔭《おかげ》さまで」と云う顔は何となく窶《やつ》れている。男はちょっ
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