当りを眺《なが》めている。何が出てくるかと思う。焦茶《こげちゃ》の中折が鴨居《かもい》を越すほどの高い背を伸《の》して、薄暗い廊下のはずれに折目正しく着こなした背広の地味なだけに、胸開《むなあき》の狭い胴衣《チョッキ》から白い襯衣《シャツ》と白い襟《えり》が著るしく上品に見える。小野さんは姿よく着こなした衣裳《いしょう》を、見栄《みばえ》のせぬ廊下の片隅に、中ぶらりんに落ちつけて、光る眼鏡を斜めに、突き当りを眺めている。何が出てくるのかと思いながら眺めている。両手を洋袴《ズボン》の隠袋《かくし》に挿《さ》し込むのは落ちつかぬ時の、落ちついた姿である。
「そこを曲《まが》ると真直です」と云う下女の声が聞えたと思うと、すらりと小夜子の姿が廊下の端《はじ》にあらわれた。海老茶色《えびちゃいろ》の緞子《どんす》の片側が竜紋《りょうもん》の所だけ異様に光線を射返して見える。在来《ありきた》りの銘仙《めいせん》の袷《あわせ》を、白足袋《しろたび》の甲を隠さぬほどに着て、きりりと角を曲った時、長襦袢《ながじゅばん》らしいものがちらと色めいた。同時に遮《さえ》ぎるものもない中廊下に七歩の間隔を置いて、
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