せ》いては事を仕損ずる。小野さんはおとなしくして事件の発展を、自《おのずか》ら開くべき優曇華《うどんげ》の未来に待ち暮していた。小野さんは進んで仕掛けるような相撲《すもう》をとらぬ、またとれぬ男である。
天地はこの有望の青年に対して悠久《ゆうきゅう》であった。春は九十日の東風《とうふう》を限りなく得意の額《ひたい》に吹くように思われた。小野さんは優《やさ》しい、物に逆《さから》わぬ、気の長い男であった。――ところへ過去が押し寄せて来た。二十七年の長い夢と背《そびら》を向けて、西の国へさらりと流したはずの昔から、一滴の墨汁《ぼくじゅう》にも較《くら》ぶべきほどの暗い小《ちさ》い点が、明かなる都まで押し寄せて来た。押されるものは出る気がなくても前へのめりたがる。おとなしく時機を待つ覚悟を気長にきめた詩人も未来を急がねばならぬ。黒い点は頭の上にぴたりと留《とどま》っている。仰ぐとぐるぐる旋転《せんてん》しそうに見える。ぱっと散れば白雨《ゆうだち》が一度にくる。小野さんは首を縮めて馳《か》け出したくなる。
四五日は孤堂《こどう》先生の世話やら用事やらで甲野《こうの》の方へ足を向ける事も出来
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