「まだ歩ける? そりゃえらい。じゃ御茶は廃《よ》しにするかね」
「でも欽吾《きんご》さんが休みたいとおっしゃるじゃありませんか」
「ハハハハなかなか旨《うま》い事を云う。甲野さん、糸公が君のために休んでやるとさ」
「ありがたい」と甲野さんは薄笑をしたが、
「藤尾も休んでくれるだろうね」と同じ調子でつけ加える。
「御頼みなら」と簡明な答がある。
「どうせ女には敵《かな》わない」と甲野さんは断案を下《くだ》した。
 池の水に差し掛けて洋風に作り上げた仮普請《かりぶしん》の入口を跨《また》ぐと、小《ちいさ》い卓に椅子《いす》を添えてここ、かしこに併《なら》べた大広間に、三人四人ずつの群《むれ》がおのおの口の用を弁じている。どこへ席をとろうかと、四五十人の一座をずっと見廻した宗近君は、並んで右に立っている甲野さんの袂《たもと》をぐいと引いた。後《うしろ》の藤尾はすぐおやと思う。しかし仰山《ぎょうさん》に何事かと聞くのは不見識である。甲野さんは別段相図を返した様子もなく
「あすこが空《あ》いている」とずんずん奥へ這入《はい》って行く。あとを跟《つ》けながら藤尾の眼は大きな部屋の隅から隅までを残
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