―小野、どっか休む所があるだろう、小夜が心持がよくないそうだから」
「そうですか、そこへ出るとたくさん茶屋がありますから」と小野さんはまた先へ立って行く。
運命は丸い池を作る。池を回《めぐ》るものはどこかで落ち合わねばならぬ。落ち合って知らぬ顔で行くものは幸である。人の海の湧《わ》き返る薄黒い倫敦《ロンドン》で、朝な夕なに回り合わんと心掛ける甲斐《かい》もなく、眼を皿に、足を棒に、尋ねあぐんだ当人は、ただ一重《ひとえ》の壁に遮《さえぎ》られて隣りの家に煤《すす》けた空を眺《なが》めている。それでも逢《あ》えぬ、一生逢えぬ、骨が舎利《しゃり》になって、墓に草が生えるまで逢う事が出来ぬかも知れぬと書いた人がある。運命は一重の壁に思う人を終古《しゅうこ》に隔てると共に、丸い池に思わぬ人をはたと行き合わせる。変なものは互に池の周囲《まわり》を回りながら近寄って来る。不可思議の糸は闇の夜をさえ縫う。
「どうだい女連《おんなれん》はだいぶ疲れたろう。ここで御茶でも飲むかね」と宗近君が云う。
「女連はとにかく僕の方が疲れた」
「君より糸公の方が丈夫だぜ。糸公どうだ、まだ歩けるか」
「まだ歩けるわ」
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