下谷《したや》へ通す。踏み合う黒い影はことごとく池《いけ》の端《はた》にあつまる。――文明の人ほど驚ろきたがるものはない。
 松高くして花を隠さず、枝の隙間《すきま》に夜を照らす宵重《よいかさ》なりて、雨も降り風も吹く。始めは一片《ひとひら》と落ち、次には二片と散る。次には数うるひまにただはらはらと散る。この間中《あいだじゅう》は見るからに、万紅《ばんこう》を大地に吹いて、吹かれたるものの地に届かざるうちに、梢《こずえ》から後を追うて落ちて来た。忙がしい吹雪《ふぶき》はいつか尽きて、今は残る樹頭に嵐もようやく収《おさま》った。星ならずして夜を護《も》る花の影は見えぬ。同時にイルミネーションは点《つ》いた。
「あら」と糸子が云う。
「夜の世界は昼の世界より美しい事」と藤尾が云う。
 薄《すすき》の穂を丸く曲げて、左右から重なる金の閃《きらめ》く中に織り出した半月《はんげつ》の数は分からず。幅広に腰を蔽《おお》う藤尾の帯を一尺隔てて宗近《むねちか》君と甲野《こうの》さんが立っている。
「これは奇観だ。ざっと竜宮だね」と宗近君が云う。
「糸子《いとこ》さん、驚いたようですね」と甲野さんは帽子
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