女は嫁に行くんだろうか、どうだろうかって、しきりに心配して……」
「もうたくさん」
「たくさんなら廃《よ》そう」
「その女の方《かた》は何とおっしゃるの、名前は」
「名前かい――だってもうたくさんだって云うじゃないか」
「教えたって好いじゃありませんか」
「ハハハハそう真面目《まじめ》にならなくっても好い。実は嘘《うそ》だ。全く兄さんの作り事さ」
「悪《にく》らしい」
 糸子はめでたく笑った。

        十一

 蟻《あり》は甘きに集まり、人は新しきに集まる。文明の民は劇烈なる生存《せいそん》のうちに無聊《ぶりょう》をかこつ。立ちながら三度の食につくの忙《いそがし》きに堪《た》えて、路上に昏睡《こんすい》の病を憂《うれ》う。生を縦横に託して、縦横に死を貪《むさぼ》るは文明の民である。文明の民ほど自己の活動を誇るものなく、文明の民ほど自己の沈滞に苦しむものはない。文明は人の神経を髪剃《かみそり》に削《けず》って、人の精神を擂木《すりこぎ》と鈍くする。刺激に麻痺《まひ》して、しかも刺激に渇《かわ》くものは数《すう》を尽くして新らしき博覧会に集まる。
 狗《いぬ》は香《か》を恋《した
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