の塗美くしき蓋《ふた》をはたと落した。やがて日永《ひなが》の窓に赤くなった耳朶《みみたぶ》のあたりを、平手《ひらて》で支えて、右の肘《ひじ》を針箱の上に、取り広げたる縫物の下で、隠れた膝《ひざ》を斜めに崩《くず》した。襦袢《じゅばん》の袖に花と乱るる濃き色は、柔らかき腕を音なく滑《すべ》って、くっきりと普通《つね》よりは明かなる肉の柱が、蝶《ちょう》と傾く絹紐《リボン》の下に鮮《あざや》かである。
「兄さん」
「何だい。――仕事はもうおやめか。何だかぼんやりした顔をしているね」
「藤尾さんは駄目よ」
「駄目だ? 駄目とは」
「だって来る気はないんですもの」
「御前聞いて来たのか」
「そんな事がまさか無躾《ぶしつけ》に聞かれるもんですか」
「聞かないでも分かるのか。まるで巫女《いちこ》だね。――御前がそう頬杖《ほおづえ》を突いて針箱へ靠《も》たれているところは天下の絶景だよ。妹ながら天晴《あっぱれ》な姿勢だハハハハ」
「沢山《たんと》御冷《おひ》やかしなさい。人がせっかく親切に言って上げるのに」
云いながら糸子は首を支《ささ》えた白い腕をぱたりと倒した。揃《そろ》った指が針箱の角を抑《
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