者にあるもんだ。親不孝な学問をして、日々《にちにち》人間と御無沙汰《ごぶさた》になって……」
「誠に済みません。――親不孝な学問か、ハハハハハ。君白い帆が見える。そら、あの島の青い山を背《うしろ》にして――まるで動かんぜ。いつまで見ていても動かんぜ」
「退屈な帆だな。判然しないところが君に似ていらあ。しかし奇麗だ。おや、こっちにもいるぜ」
「あの、ずっと向うの紫色の岸の方にもある」
「うん、ある、ある。退屈だらけだ。べた一面だ」
「まるで夢のようだ」
「何が」
「何がって、眼前の景色がさ」
「うんそうか。僕はまた君が何か思い出したのかと思った。ものは君、さっさと片付けるに限るね。夢のごとしだって懐手《ふところで》をしていちゃ、駄目だよ」
「何を云ってるんだい」
「おれの云う事もやっぱり夢のごとしか。アハハハハ時に将門《まさかど》が気※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]《きえん》を吐いたのはどこいらだろう」
「何でも向う側だ。京都を瞰下《みおろ》したんだから。こっちじゃない。あいつも馬鹿だなあ」
「将門か。うん、気※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]を吐くより
前へ 次へ
全488ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング