《あいきょう》が湧《わ》いて出る。漾《ただよ》うは笑の波だと云う。攪《か》き淆《ま》ぜるのは親切の箸と名づける。鍋そのものからが品《ひん》よく出来上っている。謎の女はそろりそろりと攪き淆ぜる。手つきさえ能掛《のうがかり》である。大和尚《だいおしょう》の怖《こわ》がらぬのも無理はない。
「いや。だいぶ御暖《おあったか》になりました。さあどうぞ」と布団の方へ大きな掌《てのひら》を出す。女はわざと入口に坐ったまま両手を尋常につかえる。
「その後《のち》は……」
「どうぞ御敷き……」と大きな手はやっぱり前へ突き出したままである。
「ちょっと出ますんでございますが、つい無人《ぶにん》だもので、出よう出ようと思いながら、とうとう御無沙汰《ごぶさた》になりまして……」で少し句が切れたから大和尚が何か云おうとすると、謎の女はすぐ後《あと》をつける。
「まことに相済みません」で黒い頭をぴたりと畳へつけた。
「いえ、どう致しまして……」ぐらいでは容易に頭を上げる女ではない。ある人が云う。あまりしとやかに礼をする女は気味がわるい。またある人が云う。あまり丁寧に御辞儀をする女は迷惑だ。第三の人が云う。人間の誠
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