いずれ長い事はあるまい。古るい人に先だたれ、新らしい人に後れれば、今日《きょう》を明日《あす》と、その日に数《はか》る命は、文《あや》も理《め》も危《あやう》い。……
格子《こうし》ががらりと開《あ》く。古《いにしえ》の人は帰った。
「今帰ったよ。どうも苛《ひど》い埃《ほこり》でね」
「風もないのに?」
「風はないが、地面が乾いてるんで――どうも東京と云う所は厭《いや》な所だ。京都の方がよっぽどいいね」
「だって早く東京へ引き越す、引き越すって、毎日のように云っていらしったじゃありませんか」
「云ってた事は、云ってたが、来て見るとそうでもないね」と椽側で足袋《たび》をはたいて座に直った老人は、
「茶碗が出ているね。誰か来たのかい」
「ええ。小野さんがいらしって……」
「小野が? そりゃあ」と云ったが、提《さ》げて来た大きな包をからげた細縄の十文字を、丁寧に一文字ずつほどき始める。
「今日はね。座布団《ざぶとん》を買おうと思って、電車へ乗ったところが、つい乗り替を忘れて、ひどい目に逢《あ》った」
「おやおや」と気の毒そうに微笑《ほほえ》んだ娘は
「でも布団は御買いになって?」と聞く。
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