「ああ、布団だけはここへ買って来たが、御蔭《おかげ》で大変遅れてしまったよ」と包みのなかから八丈《はちじょう》まがいの黄な縞《しま》を取り出す。
「何枚買っていらしって」
「三枚さ。まあ三枚あれば当分間に合うだろう。さあちょっと敷いて御覧」と一枚を小夜子の前へ出す。
「ホホホホあなた御敷なさいよ」
「阿父《おとっさん》も敷くから、御前も敷いて御覧。そらなかなか好いだろう」
「少し綿が硬いようね」
「綿はどうせ――価《ね》が価だから仕方がない。でもこれを買うために電車に乗り損《そく》なってしまって……」
「乗替をなさらなかったんじゃないの」
「そうさ、乗替を――車掌に頼んで置いたのに。忌々《いまいま》しいから帰りには歩いて来た」
「御草臥《おくたびれ》なすったでしょう」
「なあに。これでも足はまだ達者だからね。――しかし御蔭で髯《ひげ》も何も埃《ほこり》だらけになっちまった。こら」と右手《めて》の指を四本|并《なら》べて櫛《くし》の代りに顎《あご》の下を梳《す》くと、果して薄黒いものが股について来た。
「御湯に御這入《おはい》んなさらないからですよ」
「なに埃だよ」
「だって風もないのに
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