か情《なさ》けない心持がする。小野さんは出直した。
「嵐山も元とはだいぶ違ったでしょうね」
「ええ。大悲閣《だいひかく》の温泉などは立派に普請《ふしん》が出来て……」
「そうですか」
「小督《こごう》の局《つぼね》の墓がござんしたろう」
「ええ、知っています」
「彼所《あすこ》いらは皆《みんな》掛茶屋ばかりで大変賑やかになりました」
「毎年《まいとし》俗になるばかりですね。昔の方がよほど好い」
 近寄れぬと思った小野さんは、夢の中の小野さんとぱたりと合った。小夜子ははっと思う。
「本当に昔の方が……」と云い掛けて、わざと庭を見る。庭には何にもない。
「私がごいっしょに遊びに行った時分は、そんなに雑沓《ざっとう》しませんでしたね」
 小野さんはやはり夢の中の小野さんであった。庭を向いた眼は、ちらりと真向《まむき》に返る。金縁の眼鏡《めがね》と薄黒い口髭《くちひげ》がすぐ眸《ひとみ》に映《うつ》る。相手は依然として過去の人ではない。小夜子はゆかしい昔話の緒《いとくち》の、するすると抜け出しそうな咽喉《のど》を抑《おさ》えて、黙って口をつぐんだ。調子づいて角《かど》を曲ろうとする、どっこいと
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