君なんかは横川の文科組なんだ。――阿爺《おとっ》さん叡山《えいざん》の総長は誰ですか」
「総長とは」
「叡山の――つまり叡山を建てた男です」
「開基《かいき》かい。開基は伝教大師《でんぎょうだいし》さ」
「あんな所へ寺を建てたって、人泣かせだ、不便で仕方がありゃしない。全体|昔《むか》しの男は酔興だよ。ねえ甲野さん」
甲野さんは何だか要領を得ぬ返事を一口した。
「伝教大師は御前《おまい》、叡山の麓《ふもと》で生れた人だ」
「なるほどそう云えば分った。甲野さん分ったろう」
「何が」
「伝教大師御誕生地と云う棒杭《ぼうぐい》が坂本に建っていましたよ」
「あすこで生れたのさ」
「うん、そうか、甲野さん君も気が着いたろう」
「僕は気が着かなかった」
「豆に気を取られていたからさ」
「アハハハハ」と老人がまた笑う。
観ずるものは見ず。昔しの人は想《そう》こそ無上《むじょう》なれと説いた。逝《ゆ》く水は日夜を捨てざるを、いたずらに真と書き、真と書いて、去る波の今書いた真を今|載《の》せて杳然《ようぜん》と去るを思わぬが世の常である。堂に法華《ほっけ》と云い、石に仏足《ぶっそく》と云い、※[#「
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