名ですか」
「やはり延暦寺《えんりゃくじ》の区域だね。広い山の中に、あすこに一《ひ》と塊《かた》まり、ここに一と塊まりと坊が集《かた》まっているから、まあこれを三つに分けて東塔とか西塔とか云うのだと思えば間違はない」
「まあ、君、大学に、法、医、文とあるようなものだよ」と宗近君は横合から、知ったような口を出す。
「まあ、そうだ」と老人は即座に賛成する。
「東《とう》は修羅《しゅら》、西《さい》は都に近ければ横川《よかわ》の奥ぞ住みよかりけると云う歌がある通り、横川が一番|淋《さび》しい、学問でもするに好い所となっている。――今話した相輪※[#「木+棠」、第3水準1−86−14]《そうりんとう》から五十丁も這入《はい》らなければ行かれない」
「どうれで知らずに通った訳だな、君」と宗近君がまた甲野さんに話しかける。甲野さんは何とも云わずに老人の説明を謹聴している。老人は得意に弁ずる。
「そら謡曲の船弁慶《ふなべんけい》にもあるだろう。――かように候《そうろう》ものは、西塔《さいとう》の傍《かたわら》に住居《すまい》する武蔵坊弁慶にて候――弁慶は西塔におったのだ」
「弁慶は法科にいたんだね。
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