から御覧になった事があって」と云う。
「まだ、ありません」
「雨の降る日に。――おや少し降って来たようですね」と庭の方を見る。空はなおさら暗くなる。
「それからね。――小米桜の後《うし》ろは建仁寺の垣根で、垣根の向うで琴の音《ね》がするんです」
琴はいよいよ出て来た。糸子はなるほどと思う。小野さんはこれはと思う。
「二階の欄干から、見下すと隣家《となり》の庭がすっかり見えるんです。――ついでにその庭の作りも話しましょうか。ホホホホ」と藤尾は高く笑った。冷たい糸が辛夷の花をきらりと掠《かす》める。
「ホホホホ御厭《おいや》なの――何だか暗くなって来た事。花曇りが化《ば》け出しそうね」
そこまで近寄って来た暗い雲は、そろそろ細い糸に変化する。すいと木立を横ぎった、あとから直《すぐ》すいと追懸《おいか》けて来る。見ているうちにすいすいと幾本もいっしょに通って行く。雨はようやく繁くなる。
「おや本降《ほんぶり》になりそうだ事」
「私《わたし》失礼するわ、降って来たから。御話し中で失礼だけれども。大変面白かったわ」
糸子は立ち上がる。話しは春雨と共に崩《くず》れた。
七
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