子は心細い気がした。藤尾の方はようやく胸が隙《す》く。
「それじゃ、その続をあなたに話して見ましょうか」
人を呪《のろ》わば穴二つと云う。小野さんは是非共ええと答えなければならぬ。
「ええ」
「二階の下に飛石が三つばかり筋違《すじかい》に見えて、その先に井桁《いげた》があって、小米桜《こごめざくら》が擦《す》れ擦れに咲いていて、釣瓶《つるべ》が触るとほろほろ、井戸の中へこぼれそうなんです。……」
糸子は黙って聴いている。小野さんも黙って聴いている。花曇りの空がだんだん擦《ず》り落ちて来る。重い雲がかさなり合って、弥生《やよい》をどんよりと抑えつける。昼はしだいに暗くなる。戸袋を五尺離れて、袖垣《そでがき》のはずれに幣辛夷《してこぶし》の花が怪しい色を併《なら》べて立っている。木立に透《す》かしてよく見ると、折々は二筋、三筋雨の糸が途切れ途切れに映《うつ》る。斜めにすうと見えたかと思うと、はや消える。空の中から降るとは受け取れぬ、地の上に落つるとはなおさら思えぬ。糸の命はわずかに尺余りである。
居は気を移す。藤尾の想像は空と共に濃《こまや》かになる。
「小米桜を二階の欄干《てすり》
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