だ。
「小野さん、あなたには分るでしょう」と藤尾の方から切って出る。糸子は分らず屋として取り除《の》けられた。女二人を調停するのは眼の前に快《こころよ》からぬ言葉の果し合を見るのが厭《いや》だからである。文錦《あやにしき》やさしき眉《まゆ》に切り結ぶ火花の相手が、相手にならぬと見下げられれば、手を出す必要はない。取除者《とりのけもの》を仲間に入れてやる親切は、取除者の方で、うるさく絡《からま》ってくる時に限る。おとなしくさえしていれば、取り除けられようが、見下げられようが、当分自分の利害には関係せぬ。小野さんは糸子を眼中に置く必要がなくなった。切って出た藤尾にさえ調子《ばつ》を合せていれば間違はない。
「分りますとも。――詩の命は事実より確かです。しかしそう云う事が分らない人が世間にはだいぶありますね」と云った。小野さんは糸子を軽蔑《けいべつ》する料簡《りょうけん》ではない、ただ藤尾の御機嫌に重きを置いたまでである。しかもその答は真理である。ただ弱いものにつらく当る真理である。小野さんは詩のために愛のためにそのくらいの犠牲をあえてする。道義は弱いものの頭《かしら》に耀《かがや》かず、糸
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