面白いんですよ。五重の塔が面白いのよ。ねえ小野さん」
 御機嫌に逆《さから》った時は、必ず人をもって詫《わび》を入れるのが世間である。女王の逆鱗《げきりん》は鍋《なべ》、釜《かま》、味噌漉《みそこし》の御供物《おくもつ》では直せない。役にも立たぬ五重の塔を霞《かすみ》のうちに腫物《はれもの》のように安置しなければならぬ。
「五重の塔はそれっきりよ。五重の塔がどうするものですかね」
 藤尾の眉《まゆ》はぴくりと動いた。糸子は泣きたくなる。
「御気に障《さわ》ったの――私が悪るかったわ。本当に五重の塔は面白いのよ。御世辞じゃない事よ」
 針鼠《はりねずみ》は撫《な》でれば撫でるほど針を立てる。小野さんは、破裂せぬ前にどうかしなければならぬ。
 五重の塔を持ち出せばなお怒《おこ》られる。琴の音《ね》は自分に取って禁物である。小野さんはどうして調停したら好かろうかと考えた。話が京都を離れれば自分には好都合だが、むやみに縁のない離し方をすると、糸子さん同様に軽蔑《けいべつ》を招く。向うの話題に着いて廻って、しかも自分に苦痛のないように発展させなければならぬ。銀時計の手際ではちとむずかし過ぎるよう
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