藤尾は内心にふんと思った。この眼は、この袖《そで》は、この詩とこの歌は、鍋《なべ》、炭取の類《たぐい》ではない。美くしい世に動く、美しい影である。実用の二字を冠《かむ》らせられた時、女は――美くしい女は――本来の面目を失って、無上の侮辱を受ける。
「一《はじめ》さんは、いつ奥さんを御貰いなさるおつもりなんでしょう」と話しだけは上滑《うわすべり》をして前へ進む。糸子は返事をする前に顔を揚《あ》げて藤尾を見た。戦争はだんだん始まって来る。
「いつでも、来て下さる方があれば貰うだろうと思いますの」
 今度は藤尾の方で、返事をする前に糸子を眤《じっ》と見る。針は真逆《まさか》の用意に、なかなか瞳《ひとみ》の中《うち》には出て来ない。
「ホホホホどんな立派な奥さんでも、すぐ出来ますわ」
「本当にそうなら、いいんですが」と糸子は半分ほど裏へ絡《から》まってくる。藤尾はちょっと逃げて置く必要がある。
「どなたか心当りはないんですか。一《はじめ》さんが貰うときまれば本気に捜《さ》がしますよ」
 黐竿《もちざお》は届いたか、届かないか、分らぬが、鳥は確かに逃げたようだ。しかしもう一歩進んで見る必要がある
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