「ええ、どうぞ捜がしてちょうだい、私の姉さんのつもりで」
 糸子は際《きわ》どいところを少し出過ぎた。二十世紀の会話は巧妙なる一種の芸術である。出ねば要領を得ぬ。出過ぎるとはたかれる。
「あなたの方が姉さんよ」と藤尾は向うで入れる捜索《さぐり》の綱を、ぷつりと切って、逆《さか》さまに投げ帰した。糸子はまだ悟らぬ。
「なぜ?」と首を傾ける。
 放つ矢のあたらぬはこちらの不手際《ふてぎわ》である。あたったのに手答《てごたえ》もなく装《よそお》わるるは不器量《ふきりょう》である。女は不手際よりは不器量を無念に思う。藤尾はちょっと下唇を噛《か》んだ。ここまで推《お》して来て停《とど》まるは、ただ勝つ事を知る藤尾には出来ない。
「あなたは私《わたし》の姉さんになりたくはなくって」と、素知らぬ顔で云う。
「あらっ」と糸子の頬に吾《われ》を忘れた色が出る。敵はそれ見ろと心の中《うち》で冷笑《あざわら》って引き上げる。
 甲野《こうの》さんと宗近《むねちか》君と相談の上取りきめた格言に云う。――第一義において活動せざるものは肝胆相照らすを得ずと。両人《ふたり》の妹は肝胆の外廓《そとぐるわ》で戦争を
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