堪《た》えず、俯目《ふしめ》に人を避けて、名物の団子を眺《なが》めている。薄く染めた綸子《りんず》の被布《ひふ》に、正しく膝を組み合せたれば、下に重ねる衣《きぬ》の色は見えぬ。ただ襟元《えりもと》より燃え出ずる何の模様の半襟かが、すぐ甲野さんの眼に着いた。
「あれだよ」
「あれが?」
「あれが琴《こと》を弾《ひ》いた女だよ。あの黒い羽織は阿爺《おやじ》に違ない」
「そうか」
「あれは京人形じゃない。東京のものだ」
「どうして」
「宿の下女がそう云った」
 瓢箪《ひょうたん》に酔《えい》を飾る三五の癡漢《うつけもの》が、天下の高笑《たかわらい》に、腕を振って後《うし》ろから押して来る。甲野さんと宗近さんは、体《たい》を斜めにえらがる人を通した。色の世界は今が真《ま》っ盛《さか》りである。

        六

 丸顔に愁《うれい》少し、颯《さっ》と映《うつ》る襟地《えりじ》の中から薄鶯《うすうぐいす》の蘭《らん》の花が、幽《かすか》なる香《か》を肌に吐いて、着けたる人の胸の上にこぼれかかる。糸子《いとこ》はこんな女である。
 人に示すときは指を用いる。四つを掌《たなごころ》に折って、余
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