人間が自然の御手本さ」
「それじゃやっぱり京人形党だね」
「京人形はいいよ。あれは自然に近い。ある意味において第一義だ。困るのは……」
「困るのは何だい」
「大抵困るじゃないか」と甲野さんは打ち遣《や》った。
「そう困った日にゃ方《ほう》が付かない。御手本が無くなる訳だ」
「瀬を下って愉快だと云うのは御手本があるからさ」
「おれにかい」
「そうさ」
「すると、おれは第一義の人物だね」
「瀬を下ってるうちは、第一義さ」
「下ってしまえば凡人か。おやおや」
「自然が人間を翻訳する前に、人間が自然を翻訳するから、御手本はやっぱり人間にあるのさ。瀬を下って壮快なのは、君の腹にある壮快が第一義に活動して、自然に乗り移るのだよ。それが第一義の翻訳で第一義の解釈だ」
「肝胆相照《かんたんあいて》らすと云うのは御互に第一義が活動するからだろう」
「まずそんなものに違《ちがい》ない」
「君に肝胆相照らす場合があるかい」
甲野さんは黙然《もくねん》として、船の底を見詰めた。言うものは知らずと昔《むか》し老子が説いた事がある。
「ハハハハ僕は保津川《ほづがわ》と肝胆相照らした訳だ。愉快愉快」と宗近君は二た
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