、牽綱《ひきづな》をわが勢に逆《さから》わぬほどに、疾《と》く滑《すべ》らすための策《はかりごと》と云う。
「少しは穏《おだや》かになったね」と甲野さんは左右の岸に眼を放つ。踏む角も見えぬ切っ立った山の遥《はる》かの上に、鉈《なた》の音が丁々《ちょうちょう》とする。黒い影は空高く動く。
「まるで猿だ」と宗近君は咽喉仏《のどぼとけ》を突き出して峰を見上げた。
「慣《な》れると何でもするもんだね」と相手も手を翳《かざ》して見る。
「あれで一日働いて若干《いくら》になるだろう」
「若干になるかな」
「下から聞いて見《み》ようか」
「この流れは余り急過ぎる。少しも余裕がない。のべつに駛《はし》っている。所々にこう云う場所がないとやはり行かんね」
「おれは、もっと、駛りたい。どうも、さっきの岩の腹を突いて曲がった時なんか実に愉快だった。願《ねがわ》くは船頭の棹《さお》を借りて、おれが、舟を廻したかった」
「君が廻せば今頃は御互に成仏《じょうぶつ》している時分だ」
「なに、愉快だ。京人形を見ているより愉快じゃないか」
「自然は皆第一義で活動しているからな」
「すると自然は人間の御手本だね」
「なに
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