って小説戯曲の材料は七分まで、徳義的批判に訴えて取捨選択《しゅしゃせんたく》せられるのであります。恋を描くにローマン主義の場合では途中で、単に顔を合せたばかりで直《す》ぐに恋情が成立ち、このために盲目になったり、跛足になったりして、煩悶懊悩《はんもんおうのう》するというようなことになる。しかしこんな事実は、実際あり得ない事である。其処《そこ》が感激派の小説で、或《ある》情緒を誇大して、即ち抽象的理想を具体化したようなものを作り上げたのであります、事実からは遠いけれど感激は多いのであります。
ローマンチックの道徳は何となしに対象物をして大きく偉く感じさせる。ナチュラリズムの道徳は、自己の欠点を暴露させる正直な可愛らしい所がある。
ローマンチシズムの芸術は情緒的エモーショナルで人をして偉く大きく思わせるし、ナチュラリズムの芸術は理智的で、正直に実際を思わしめる。即ち文学上から見てローマンチシズムは偽《いつわり》を伝えるがまた人の精神に偉大とか崇高《すうこう》とかの現象を認めしめるから、人の精神を未来に結合さする。ナチュラリズムは、材料の取扱い方が正直で、また現在の事実を発揮さすることに
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