勉《つと》むるから、人の精神を現在に結合さする、例えば人間を始めから不完全な物と見て人の欠点を評したるものである。ローマンチシズムは、己《おのれ》以上の偉大なるものを材料として取扱うから、感激的であるけれども、その材料が読む者聞く者には全く、没交渉《ぼつこうしょう》で印象にヨソヨソしい所がある、これに引き換えてナチュラリズムは、如何に汚い下らないものでも、自分というものがその鏡に写って何だか親しくしみじみと感得《かんとく》せしめる。能《よ》く能く考えて見ると人というものは、平時においては軽微の程度におけるローマンチシズムの主張者で、或者を批評したり要求するに自己の力以上のものを以てしている。
 一体人間の心は自分以上のものを、渇仰《かつごう》する根本的の要求を持っている、今日よりは明日に一部の望みを有するのである。自分より豪《えら》いもの自分より高いものを望む如く、現在よりも将来に光明《こうみょう》を発見せんとするものである。以上述べた如くローマンチシズムの思想即ち一の理想主義の流れは、永久に変ることなく、深く人心《じんしん》の奥底に永《なが》き生命を有しているものであります。従ってロ
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