らなくなると仏国《ふつこく》の学者はいうている。
 物は常に変化して行く、世の中の事は常に変化する、それで孔子という概念をきめてこれを理想としてやって来たものが後にこれが間違であったということを悟《さと》るというような場合も出来て来る。こういう変化はなぜ起ったか、これは物理化学|博物《はくぶつ》などの科学が進歩して物をよく見て、研究して見る。こういう科学的精神を、社会にも応用して来る。また階級もなくなる交通も便利になる、こういう色々な事情からついに今日の如き思想に変化して来たのであります。
 道徳上の事で、古人の少しもゆるさなかったことを、今の人はよほど許容する、我儘《わがまま》をも許す、社会がゆるやかになる、畢竟《ひっきょう》道徳的価値の変化という事が出来て来た。即ち自分というものを発揮してそれで短所欠点|悉《ことごと》くあらわす事をなんとも思わない。そして無理の事がなくなる。昔は負惜《まけおし》みをしたものだ、残酷な事も忍んだものだ。今はそれが段々なくなって、自分の弱点をそれほど恐れずに世の中に出す事を何とも思わない。それで古《いにしえ》の人の弊《へい》はどんな事かというと、多少|
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