、新ローマン主義ともいうべきものは、自然主義対ローマン主義の最後に生ずるはずである。新ローマン主義というとも決して、昔のローマン主義に返ったのではない、全く別物なのであります。
 即ち新ローマン主義は、昔時のローマン主義のように空想に近い理想を立てずに、程度の低い実際に近い達成し得《え》らるる目的を立てて、やって行くのである。社会は常に、二元である。ローマン主義の調和は時と場所に依り、その要求に応じて二者が適宜に調諧《ちょうかい》して、甲の場合には自然主義六分ローマン主義四分というように時代及び場所の要求に伴《ともの》うて、両者の完全なる調和を保つ所に、新ローマン主義を認める。将来はこうなる事であろうと思う。
 昔の感激的の教育と、当時の情緒的なローマン主義の文芸と今の科学上の真《しん》を重んずる教育主義と、空想的ならざる自然主義の文芸と、相連《あいつらな》って両者の変遷及び関係が明瞭になるのであります。かくして人心に向上の念がある以上、永久にローマン主義の存続を認むると共に、総《すべ》ての真に価値を発見する自然主義もまた充分なる生命を存して、この二者の調和が今後の重《おも》なる傾向と
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