の一部の小説が人に嫌《きら》われるは、自然主義そのものの欠点でなく取扱う同派の文学者の失敗で、畢竟《ひっきょう》過去の極端なるローマン主義の反動であります。反動は正動よりも常規《じょうき》を逸する。故にわれわれは反動として多少この間《かん》の消息を諒《りょう》とせねばならぬ。
 さて自然主義は遠慮なく事実そのままを人の前に暴露し、または描き出すため種々なる欠点を生ずるに至りましたが、これを救うは過去のローマン主義を復興するにあらずして、新ローマン主義ともいうべきものを興《おこ》すにあろうかと思う。新ローマン主義というも、全く以前のローマン主義とは別物である。凡《およ》そ歴史は繰返すものなりというけれども、歴史は決して繰返さぬのである、繰返すというのは間違である。如何なる場合にも後戻りをすることなく前へ前へと走っている。
 教育及び文芸とても、自然主義に弊害があるからとて、昔には戻らぬ。もし戻ってもそれは全く新なる形式内容を有するもので、浅薄《せんぱく》なる観察者には昔時《せきじ》に戻りたる感じを起させるけれども、実はそうではないのであります。しこうして自然主義に反動したものとするならば
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