も好かろう」
「そうして、どうするんだ」
「どうするって。赤い金は赤い区域内だけで通用するようにする。白い金は白い区域内だけで使う事にする。もし領分外へ出ると、瓦《かわら》の破片《かけら》同様まるで幅が利《き》かないようにして、融通の制限をつけるのさ」
 もし空谷子が初対面の人で、初対面の最先《さいさき》からこんな話をしかけたら、自分は空谷子をもって、あるいは脳の組織に異状のある論客《ろんかく》と認めたかも知れない。しかし空谷子は地球より大きな火事を想像する男だから、安心してその訳を聞いて見た。空谷子の答はこうであった。
「金はある部分から見ると、労力の記号だろう。ところがその労力がけっして同種類のものじゃないから、同じ金で代表さして、彼是《ひし》相通ずると、大変な間違になる。例えば僕がここで一万|噸《トン》の石炭を掘ったとするぜ。その労力は器械的の労力に過ぎないんだから、これを金に代えたにしたところが、その金は同種類の器械的の労力と交換する資格があるだけじゃないか。しかるに一度《ひとたび》この器械的の労力が金に変形するや否や、急に大自在《だいじざい》の神通力《じんずうりき》を得て、道
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