永日小品
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)雑煮《ぞうに》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)元来|謡《うたい》のうの字も心得ない
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「疉+毛」、第4水準2−78−16]
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元日
雑煮《ぞうに》を食って、書斎に引き取ると、しばらくして三四人来た。いずれも若い男である。そのうちの一人がフロックを着ている。着なれないせいか、メルトンに対して妙に遠慮する傾《かたむ》きがある。あとのものは皆和服で、かつ不断着《ふだんぎ》のままだからとんと正月らしくない。この連中がフロックを眺めて、やあ――やあと一ツずつ云った。みんな驚いた証拠《しょうこ》である。自分も一番あとで、やあと云った。
フロックは白い手巾《ハンケチ》を出して、用もない顔を拭《ふ》いた。そうして、しきりに屠蘇《とそ》を飲んだ。ほかの連中も大いに膳《ぜん》のものを突《つッ》ついている。ところへ虚子《きょし》が車で来た。
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