徳的の労力とどんどん引き換えになる。そうして、勝手次第に精神界が攪乱《かくらん》されてしまう。不都合|極《きわ》まる魔物じゃないか。だから色分《いろわけ》にして、少しその分《ぶん》を知らしめなくっちゃいかんよ」
自分は色分説《いろわけせつ》に賛成した。それからしばらくして、空谷子に尋ねて見た。
「器械的の労力で道徳的の労力を買収するのも悪かろうが、買収される方も好かあないんだろう」
「そうさな。今のような善知善能《ぜんちぜんのう》の金を見ると、神も人間に降参するんだから仕方がないかな。現代の神は野蛮だからな」
自分は空谷子と、こんな金にならない話をして帰った。
心
二階の手摺《てすり》に湯上りの手拭《てぬぐい》を懸《か》けて、日の目の多い春の町を見下《みおろ》すと、頭巾《ずきん》を被《かむ》って、白い髭《ひげ》を疎《まば》らに生《は》やした下駄《げた》の歯入が垣の外を通る。古い鼓《つづみ》を天秤棒《てんびんぼう》に括《くく》りつけて、竹のへらでかんかんと敲《たた》くのだが、その音は頭の中でふと思い出した記憶のように、鋭いくせに、どこか気が抜けている。爺さんが筋向《す
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