まか》せて消えて行く。
四つ角でバスを待ち合せていると、鼠色《ねずみいろ》の空気が切り抜かれて急に眼の前へ馬の首が出た。それだのにバスの屋根にいる人は、まだ霧を出切らずにいる。こっちから霧を冒《おか》して、飛乗って下を見ると、馬の首はもう薄ぼんやりしている。バスが行き逢《あ》うときは、行き逢った時だけ奇麗《きれい》だなと思う。思う間もなく色のあるものは、濁った空《くう》の中に消えてしまう。漠々《ばくばく》として無色の裡《うち》に包まれて行った。ウェストミンスター橋を通るとき、白いものが一二度眼を掠《かす》めて翻《ひる》がえった。眸《ひとみ》を凝《こ》らして、その行方《ゆくえ》を見つめていると、封じ込められた大気の裡《うち》に、鴎《かもめ》が夢のように微《かす》かに飛んでいた。その時頭の上でビッグベンが厳《おごそか》に十時を打ち出した。仰ぐと空の中でただ音《おん》だけがする。
ヴィクトリヤで用を足《た》して、テート画館の傍《はた》を河沿《かわぞい》にバタシーまで来ると、今まで鼠色《ねずみいろ》に見えた世界が、突然と四方からばったり暮れた。泥炭《ピート》を溶《と》いて濃く、身の周囲《ま
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