ならしい、前代の廃物ばかり並んでいそうな見世《みせ》を選《よ》っては、あれの、これのと捻《ひね》くり廻《まわ》す。固《もと》より茶人でないから、好いの悪いのが解る次第ではないが、安くて面白そうなものを、ちょいちょい買って帰るうちには、一年に一度ぐらい掘り出し物に、あたるだろうとひそかに考えている。
井深は一箇月ほど前に十五銭で鉄瓶《てつびん》の葢《ふた》だけを買って文鎮にした。この間の日曜には二十五銭で鉄の鍔《つば》を買って、これまた文鎮《ぶんちん》にした。今日はもう少し大きい物を目懸《めが》けている。懸物《かけもの》でも額でもすぐ人の眼につくような、書斎の装飾が一つ欲しいと思って、見廻していると、色摺《いろずり》の西洋の女の画《え》が、埃《ほこり》だらけになって、横に立て懸《か》けてあった。溝《みぞ》の磨《す》れた井戸車の上に、何とも知れぬ花瓶《かびん》が載っていて、その中から黄色い尺八の歌口《うたぐち》がこの画《え》の邪魔をしている。
西洋の画はこの古道具屋に似合わない。ただその色具合が、とくに現代を超越して、上昔《そのかみ》の空気の中に黒く埋《うま》っている。いかにもこの古道
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