きつめてある。その真中に太い銅の柱があった。自分は、静かに動く人の海の間に立って、眼を挙《あ》げて、柱の上を見た。柱は眼の届く限り高く真直《まっすぐ》に立っている。その上には大きな空が一面に見えた。高い柱はこの空を真中で突き抜いているように聳《そび》えていた。この柱の先には何があるか分らなかった。自分はまた人の波に押されて広場から、右の方の通りをいずくともなく下《さが》って行った。しばらくして、ふり返ったら、竿《さお》のような細い柱の上に、小さい人間がたった一人立っていた。
人間
御作《おさく》さんは起きるが早いか、まだ髪結《かみゆい》は来ないか、髪結は来ないかと騒いでいる。髪結は昨夕《ゆうべ》たしかに頼んでおいた。ほかさまでございませんから、都合をして、是非九時までには上《あが》りますとの返事を聞いて、ようやく安心して寝たくらいである。柱時計を見ると、もう九時には五分しかない。どうしたんだろうと、いかにも焦《じ》れったそうなので、見兼ねた下女は、ちょっと見て参りましょうと出て行った。御作さんは及《およ》び腰《ごし》になって、障子《しょうじ》の前に取り出した鏡台を、立ち
前へ
次へ
全123ページ中53ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング