ててよなどと、見下した通りを報告する。すると、よしが大きな声を出して笑う。御母さんも、御祖母さんも面白そうに笑う。喜いちゃんは、こうして笑って貰うのが一番得意なのである。
喜いちゃんが裏を覗いていると、時々源坊の倅《せがれ》の与吉と顔を合わす事がある。そうして、三度に一度ぐらいは話をする。けれども喜いちゃんと与吉だから、話の合う訳がない。いつでも喧嘩《けんか》になってしまう。与吉がなんだ蒼《あお》ん膨《ぶく》れと下から云うと、喜いちゃんは上から、やあい鼻垂らし小僧、貧乏人、と軽侮《さげすむ》ように丸い顎《あご》をしゃくって見せる。一遍は与吉が怒って下から物干竿《ものほしざお》を突き出したので、喜いちゃんは驚いて家《うち》へ逃げ込んでしまった。その次には、喜いちゃんが、毛糸で奇麗《きれい》に縢《かが》った護謨毬《ゴムまり》を崖下《がけした》へ落したのを、与吉が拾ってなかなか渡さなかった。御返しよ、放《ほう》っておくれよ、よう、と精一杯にせっついたが与吉は毬を持ったまま、上を見て威張って突立《つった》っている。詫《あや》まれ、詫まったら返してやると云う。喜いちゃんは、誰が詫まるものか、泥
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