棒もやむをえず仕事の中途で逃げたのかも知れない。
そのうち、ほかの部屋に寝ていたものもみんな起きて来た。そうしてみんないろいろな事を云う。もう少し前に小用《こよう》に起きたのにとか、今夜は寝つかれないで、二時頃までは眼が冴《さ》えていたのにとか、ことごとく残念そうである。そのなかで、十《とお》になる長女は、泥棒が台所から這入《はい》ったのも、泥棒がみしみし縁側《えんがわ》を歩いたのも、すっかり知っていると云った。あらまあとお房《ふさ》さんが驚いている。お房さんは十八で、長女と同じ部屋に寝る親類の娘である。自分はまた床へ這入《はい》って寝た。
明くる日はこの騒動で、例よりは少し遅く起きた。顔を洗って、朝食《あさめし》をやっていると、台所で下女が泥棒の足痕《あしあと》を見つけたとか、見つけないとか騒いでいる。面倒《めんどう》だから書斎へ引き取った。引き取って十分も経《た》ったかと思うと、玄関で頼むと云う声がした。勇ましい声である。台所の方へ通じないようだから、自分で取次に出て見たら、巡査が格子《こうし》の前に立っていた。泥棒が這入ったそうですねと笑っている。戸締《とじま》りは好くしてあ
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