めあの人の詩を読んだ時はまるで物にならないような心持がしたが、何遍も読み過《すご》しているうちにだんだん面白くなって、しまいには非常に愛読するようになった。だから……
書生に置いて貰う件は、まるでどこかへ飛んで行ってしまった。自分はただ成行《なりゆき》に任せてへえへえと云って聞いていた。何でもその時はシェレーが誰とかと喧嘩《けんか》をしたとか云う事を話して、喧嘩はよくない、僕は両方共好きなんだから、僕の好きな二人が喧嘩をするのははなはだよくないと故障を申し立てておられた。いくら故障を申し立てても、もう何十年か前に喧嘩をしてしまったのだから仕方がない。
先生はそそっかしいから、自分の本などをよく置き違える。そうしてそれが見当《みあた》らないと、大いに焦《せ》きこんで、台所にいる婆さんを、ぼやでも起ったように、仰山《ぎょうさん》な声をして呼び立てる。すると例の婆さんが、これも仰山な顔をして客間へあらわれて来る。
「お、おれの『ウォーズウォース』はどこへやった」
婆さんは依然として驚いた眼を皿のようにして一応|書棚《しょだな》を見廻しているが、いくら驚いてもはなはだたしかなもので、すぐ
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