詩の分る方の仲間へ入れてくれたのははなはだありがたいが、その割合には取扱がすこぶる冷淡である。自分はこの先生においていまだ情合《じょうあい》というものを認めた事がない。全く器械的にしゃべってる御爺《おじい》さんとしか思われなかった。
けれどもこんな事があった。自分のいる下宿がはなはだ厭《いや》になったから、この先生の所へでも置いて貰おうかしらと思って、ある日例の稽古《けいこ》を済ましたあと、頼んで見ると、先生たちまち膝《ひざ》を敲《たた》いて、なるほど、僕のうちの部屋を見せるから、来たまえと云って、食堂から、下女部屋から、勝手から、一応すっかり引っ張り回して見せてくれた。固《もと》より四階裏の一隅《ひとすみ》だから広いはずはない。二三分かかると、見る所はなくなってしまった。先生はそこで、元の席へ帰って、君こういう家《うち》なんだから、どこへも置いて上げる訳には行かないよと断るかと思うと、たちまちワルト・ホイットマンの話を始めた。昔ホイットマンが来て自分の家へしばらく逗留《とうりゅう》していた事がある――非常に早口だから、よく分らなかったが、どうもホイットマンの方が来たらしい――で、始
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