に、「ウォーズウォース」を見つけ出す。そうして、「ヒヤ、サー」と云って、いささかたしなめるように先生の前に突きつける。先生はそれを引ったくるように受け取って、二本の指で汚《きた》ない表紙をぴしゃぴしゃ敲《たた》きながら、君、ウォーズウォースが……とやり出す。婆さんは、ますます驚いた眼をして台所へ退《さが》って行く。先生は二分も三分も「ウォーズウォース」を敲いている。そうしてせっかく捜《さが》して貰った「ウォーズウォース」をついに開けずにしまう。
先生は時々手紙を寄こす。その字がけっして読めない。もっとも二三行だから、何遍でも繰返《くりかえ》して見る時間はあるが、どうしたって判定はできない。先生から手紙がくれば差支《さしつかえ》があって稽古《けいこ》ができないと云うことと断定して始めから読む手数《てすう》を省《はぶ》くようにした。たまに驚いた婆さんが代筆をする事がある。その時ははなはだよく分る。先生は便利な書記を抱《かか》えたものである。先生は、自分に、どうも字が下手で困ると嘆息していられた。そうして君の方がよほど上手だと云われた。
こう云う字で原稿を書いたら、どんなものができるか心
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